スベスベマンジュウガニの糞
映画『2001年宇宙の旅』のラストシーン。巨大な胎児が地球を守っているあの有名なシーンは、初めて観たときには難解すぎて何のことかわからなかったが、今では、その意味がはっきりわかる。
あれはすなわち、大宇宙から眺めてみれば、お前の悩みなどハナクソ以下だ、ということを言っているのである。知らんけど。
ビバ!大宇宙。
(宮田珠己『なみのひとなみのいとなみ』)
2週間前にふたつの締め切りを終えてから、ぷつっと糸が切れてしまったように集中力が無くなってしまい、なんとか毎日机に向かったり向かわなかったりしているが、論文はちっとも進まない。燃え尽き症候群とかそういうやつかと思うが、これからフィナーレにむけて盛大に燃えてくれなくては困るのであって、でも考えるエネルギーは自在に湧き出るわけではない。今日したことを振り返ってみると、昨夜は遅かったので10時ごろまで寝て、いつも朝食に茹でる素麺さえ茹でるのが面倒だったので、歩いて1分のカフェでまずいサンドイッチとうまいマフィンを食べて、読みかけの論文をPC上で読みきり、つまらない論文だったと結論し、次はどうしようかと考えてたが、「黒子のバスケ」事件の犯人の意見陳述が公開されていたので、かなり長いがじっくり全部読んでしまった。この人は天才ではないだろうか。これほど明瞭に概念的な思考ができる人はなかなかいない。
「黒子のバスケ」脅迫事件 被告人の最終意見陳述全文公開(篠田博之) - 個人 - Yahoo!ニュース
今日は盛大に晴れで暑かったが、暑さとセミの声がセットの環境で育ったので、ただ気温が高くて暑いというのは奇妙な感じだ。誰かがつまみのようなものを回して気温を好きに変えていて、世界はハリボテではないだろうかという気さえする。うさぎがぴょこぴょこ跳ねているが、ある程度近づくと一律にみんな逃げるので、あれも行動がプログラミングされていてモーターか何かで動く造りものではないだろうか。夏至からもう1ヶ月経つものの、まだ21時頃までは十分明るい。夜はスイッチを切り替えたのか嵐になって、雷がビカビカしていた。
暑さが鬱陶しくてどうしても論文できないのでビール飲んでしまおうってことになり、飲みながらジジェクの講演をYoutubeで見ていた。内容はあちこちで繰り返してるのでだいたいわかるが、よれよれのTシャツ着て巻き舌の英語を前のめり気味にしゃべるの見るとなんか落ち着く。ついでにジジェクの短い書評を一本読んだがあんまし参考にならなかった。
Slavoj Zizek - A New Kind of Communism - YouTube
やる気が出ないときは宮田珠己さんのエッセイをよく読む。ただ旅行したくて会社を辞めて、エッセイストとして不安定な生計を立てる人である。脱力系の旅エッセイをはじめ、田舎にある巨大仏とか、ベトナムの変な盆栽とか、むかしの西洋人が描いた変な日本の絵などについての本を出している。下北沢の本屋でのトークに行ったことがあるが、イラストをスクリーンに映そうとしたけどMacの使い方がよくわからなくてうやむやになっていて、気が抜けていてたいへん素晴らしいと思った。
最近はもっと脱力してきて、何がテーマなんだかわからない単なる日記とか、四国の八十八カ所を半端にめぐる旅とか、海岸でいい感じの石ころ探す話とか、これ以上脱力できない境地に達している。
- 作者: 宮田珠己,石坂しづか
- 出版社/メーカー: 本の雑誌社
- 発売日: 2011/01/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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宮田さんが会社を辞めたのは僕より少し年上のときだった。このくらい大人になったらある程度立派になるもんだと思っていたが、大人になっても煩悩が増えただけである。宮田さんの書いてるものを読むと、境遇は違っても煩悩抱えてる人が他にいる、というくらいのことは感ぜられる。
私の場合、ある旅で人生が変わったというより、旅に出て風に吹かれた結果、旅に出る前にあれこれ思い悩んでいたことが、三十億年にわたる地球生物大進化のなかでは、まったくどうだってよい、スベスベマンジュウガニの糞の如きに思われて、心が軽やかになったりすることはままあって、おかげで、人生がどんどん行き当たりばったり無計画無秩序になってきているきがするのは、大変心配である。
(宮田珠己『なみのひとなみのいとなみ』)
スベスベマンジュウガニってどんなやつかと思って検索したらこんなのだった。たしかにすべすべでまんじゅうのよう。